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間近で観察も乙なもの

last update Last Updated: 2025-04-03 10:01:08
◇◇◇

「太智ー、ご飯食べよー」

昼休み時間になり、クラスメートで幼馴染の友人である古角悠〈こかどゆう〉が俺の所へやって来る。

俺よりやや小柄な、真面目を絵に描いたようなヤツ。

ワシャワシャ撫ででも形が崩れない、悠の形状記憶サラサラ頭髪が今日も艶を放っている。寝癖が付きやすい俺には羨ましい。

俺の前にある席を借りて机をくっつけると、いつもにこやかで優しい性格の悠は、隣の常時不愛想人間の圭次郎を無視せずに声をかけた。

「百谷君も一緒にどう?」

実は転向初日から悠は声をかけ続けている。でも圭次郎からの答えは毎度同じで、

「……遠慮する」

と露骨に嫌そうな顔をして席を立ち、教室から出て行ってしまうのがパターン化していた。今までは、めげない悠がすごいなと感心しつつ、放っておけばいいのに……と俺は何も言わずにいた。

でも間近で圭次郎ウォッチングをしたくて、俺は口を開いた。

「そう言わずに、一緒にどうだ? まさかひとりで便所で飯するのが好みか?」

「は? そんな訳がない――」

「じゃあ兄ちゃん先生たちと一緒に食べないとイヤってことか? 実は案外とお兄ちゃん大好きっ子?」

「あ、あり得ない! 分かった、そこまで言うなら一緒に食べてやろう。光栄に思え!」

まともに俺から口を聞いたのはこれが初めて。

やはり王子様キャラが体の芯まで染みついているようで偉そうだ。根っからの王子か……期待を裏切らないヤツ。

ガンッ!

自分の机を俺たちの机に強くぶつけながらひっつけると、圭次郎は不本意そうに通学カバンから弁当を取り出す。

――イチゴ柄の袋……カワイイな。

うおっ、弁当箱ちっさ! ピンクでカワイイでやんの。ネコのファンシーキャラが何匹もいやがる。本人、どう見たってヒョウとかピューマとか、孤高の肉食ネコ科なんだが……。

え、中身は……ああっ、これ幼児に大人気のこしあんまんマンのキャラ弁?! ギャップすげぇ!

しかも圭次郎、恥ずかしがる気配一切なし。堂々と、これが王族の食事ですと信じて疑わないような態度。

大物だコイツ……と内心俺は困惑する。

悠も驚いて目を剥いていたが、俺と違ってこういうことを完全スルーできるような性格じゃない。キャラ弁と圭次郎を交互に見ながら、悠はおずおずと尋ねてきた。

「え、えっと、百谷君の家に、小さいきょうだいがいるの?」

「別に。家の中では俺が最年少だが?」

「そう、
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    ◇◇◇球技大会の翌日は土曜日で、学校は休みだった。ただでさえ決勝まで全力を出し尽くした上、休みを見越してケイロに抱き潰されたせいで、俺は全身筋肉痛。まともに外出なんかできるハズもなく、自室のベッドに横たわるばかりだった。「日頃、部活動とやらで運動している割にはか弱いな」俺の部屋を自由に出入りできるケイロが、ベッドの縁に座ってニヤけながら人を覗き込んでくる。コイツのほうが試合と長時間の行為で体に負担はかかっているのに、筋肉痛どころか疲れを残していない。顔良し、頭良し、運動神経も抜群で恐ろしいまでの体力バカの絶倫。ここに思いやりと加減ができるっていう要素が加われば完璧なのに……。心の中でないものねだりをしつつ、俺は力なくケイロを睨む。「お前みたいな超人が普通だと思うなよ……うう……喋るだけで微妙に体痛ぇ……」「今日と明日、大人しくしていれば問題ないだろ。早く回復してもらわんと、お前を俺の暇つぶしに付き合わせられない」まさか回復した途端に、また昨日みたいに抱き潰す気かよ!?今までのケイロだったら、多分そんな意味で言ってたと思う。だけどからかい半分の笑いを浮かべていたケイロの眼差しが、ふわりと優しくなった。「俺はこの世界をまだよく知らない。用さえ済めばいい、としか思っていなかったが、お前が生きてきた世界だから興味が出てきた……さっさと元気になれ。共に行きたい所が山ほどある」お、お前……俺相手に、そんな心底惚れて愛しくてたまらないって目をするな。恥ずかしいだろ……っ。ボフッ。耐え切れなくなって俺は顔を引っ込め、布団に潜り込んでケイロの視線から逃げる。でもケイロはすぐに布団をめくって、俺の頬にキスしてきた。うっかり体がビクンッと跳ねて、全身に痛みと甘い痺れが走った。

  • 寄るな、触れるな、隣のファンタジア~変人上等!? 巻き込み婚~   ●ケイロの本音

    ドクン、と。一際大きく跳ね上がった鼓動に合わせて、俺の全身が脈打つ。「~~~~~~ッ! ……っ……ッッ――」体の奥底まで強張って、声が出ないまま息だけで叫んでしまう。今まで味わったどの快感よりも、強くて、深くて、消えない。その言葉を聞いただけで、こんなに感じ方が違うなんて……。自分の変化に戸惑うばかりの俺を、ケイロがさらに変えようとしてくる。「すごいな、太智の体は……正直過ぎて可愛いな。そういうところも好きだ……ああ、まただ。ずっと言って欲しかったのか?」「ち、ちが……ッ、あァ……っ、ァ……んン……ッ……」「もう強がるな。お前も俺と同じ気持ちなのだろ? ……言え。体だけじゃなく、お前の声で聞きたい」コイツ、俺を本気で落としにかかってる。本当は恋人とか夫婦とかになるために、相手を口説くなり気持ちを伝えるなりして落とすんじゃねーのか? 一体どこまで俺たちの関係は順番がおかしいんだよ?心なんかほったらかしで夫婦になったっていうのに。今さら心まで引っ張ってきて、本当になろうとすんなよ。離れられないなら突き進むしかない、っていうのは分かってるけど。この関係の行き着く先が、どう足掻いても遅かれ早かれ本当に辿り着いちまうっていうのも分かっているけれど。……言っていいんだな? お前は後悔しないんだな?俺がこのままお前の人生に絡みっぱなしで、周りからうるさくあれこれ言われて、面倒で厄介な思いをし続けることになっても構わないんだな?良いんだな? 知らないからな!?俺と本当に根っからの夫婦になって、良いことなんかないのに――。「……き

  • 寄るな、触れるな、隣のファンタジア~変人上等!? 巻き込み婚~   ●トドメの言葉

    ◇◇◇球技大会を無事に終えた夜。こうなることは予想していた――けども、その内容の濃さまでは想定していなかった。「――……アッ、まて……っ、ケイ、ロ……はげし……ぁぁ……ッ」絶え間なく奥を抉られながら、俺は息も絶え絶えに喘ぎ、ケイロに啼かされ続ける。うん、お前の体力が底なしで、絶倫だっていうのは分かってた。分かってるつもりだった。でもここまでとは思わねぇよ!だって球技大会で決勝まで勝ち上がって、戦闘しながら優勝したんだぞ? いつも以上に身も心も疲れ果てて、エッチどころじゃないはずなんだけど。……お前、もう何回目だ?俺をイカしまくって、中に出しまくって、まだ終わらないって。まさか今まで手加減してたのか? むしろこれがケイロの普通なのか?しかも魔法で回復してくるからエグい。俺が果ててヘトヘトになっても回復させられて、元気に喘がされる。ベッドのシーツを掴む指は力入りまくり。中でイく時の快感も鈍くならず、鮮やかなまま。こんなの、体は魔法で回復しても、頭ん中がグズグズに壊れる。……いや。もうとっくに壊されていて、こうなる準備を済まされていたんだ。メチャクチャにされてるって分かってるのに、強く抵抗できない。体はケイロに何をされても悦んでしまうし、何が何でもやめろと拒めない。喘ぎながらの申し訳程度の待ってしか言えない。それすらも腰は揺れてケイロを煽るし、中はずっと締め付けてケイロを離さない。ああ、認めたくない。体も心もコイツの激しさに応えたがっているなんて――。「これで……激しい? まだだ。足りない……っ」甘く喘ぐばかりの俺の脚を高く持ち上げて、ケイロはさらに深く繋がって腰を揺らす。「&hell

  • 寄るな、触れるな、隣のファンタジア~変人上等!? 巻き込み婚~   最終巻のハイタッチ

    シュウゥゥゥ……。 火の球パス練習の時と同じように、ケイロの手がボールを捕った刹那に炎の柱は消え、白煙が吹き出す。そして何事もなかったのようにドリブルを始めた。「その調子だ太智! もっと遠慮せず俺にぶつけてこい!」周囲には真意が分からない、俺たちだけで通じる内容。 ……どんどんやれってか。ボール取り損ねたら大ケガするっていうのに……あと名前呼びになってんぞ。こんな大勢いる中で……ったく。まあ今までの試合を観てるヤツなら、別におかしく思わないか。 自画自賛だけど、戦闘を抜きに考えても俺らの息ピッタリだし。試合の中で友情が芽生えたっておかしくないもんな。 ……本当は夫婦なんだけど。試合中盤から、俺たちの間だけで作戦が変わった。「行くぞ、百谷ぁ――っ!」声をかけながら、強く念じて炎の柱をバンバン出しまくりながらケイロにパスを出す。心は抑えない。テンション上げまくって、試合の攻防の高揚感も利用して、超強火な魔法を連発した。ケイロは涼しい顔して俺の火力増し増しパスを、うまく手元で鎮火して新たに手頃な火を灯す。こうしていけば一気に魔物を払うことができるから、俺たちは積極的にボールを取りに行った。さらに小まめなパスを増やして、次々と魔物を一掃していく。 パスカットでボールに指先が触れる際も呪文を小さく素早く唱えて、ファウルボールすらコート外の控え魔物たちへの攻撃に変えた。終盤になるとケイロだけじゃなく、俺のプレイでも歓声が上がるようになる。どうもボールを奪いに行く俺の気迫と執念が、観客に受けているらしい。 そりゃあ必死だからな。俺が脅威と認定されたっぽく、魔物たちは積極的に俺にも攻撃するようになったし。がむしゃらにボール持って、炎で攻撃しまくって、試合運びなんてもう考えられない状態になってた。そして――ピィィィィッ! ゲーム終了の笛が鳴る。 我に返って周囲を見渡せば、いつの間にか魔物たちの姿は消えていた。「ハァ、ハァ……あ、得点は?」乱れ

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